【読書】わたしを離さないで
何年か前に映画で観て、とても良かった作品です。
昨年、原作者のカズオ・イシグロ氏がノーベル賞を受賞したので、小説の方も読んでみました。
内容:
優秀な介護人キャシー・Hは「提供者」と呼ばれる人々の世話をしている。生まれ育った施設へールシャムの親友トミーやルースも「提供者」だった。キャシーは施設での奇妙な日々に思いをめぐらす。図画工作に力を入れた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちのぎこちない態度……。彼女の回想はヘールシャムの残酷な真実を明かしていく。
美しさと残酷さを持ち合わせた、すごい小説でした。
ジャンルとしてはSFミステリー的なのですが、その設定や謎だけに重点をおいていません。
人生観、倫理観、差別、命の尊厳。様々なテーマを含んでいます。
読み終えた後は、切なさとやるせなさ、そして不思議な安らかさを感じました。
青春期の心理についても、リアリティをもって描かれています。
例えば子供時代。主人公の思い出として語られるエピソードは、ごくごく普通の学生生活です。
友情、気になる男の子、三角関係。女の子どうしのマウンティング、癇癪持ちの子に対するからかいや仲間外れ。
誰もが経験したことがあるような、共感できる出来事ばかりです。
だけど彼らのおかれている状況はとてつもなく特殊で。
逆らえない大きな『使命』を背負う、主人公たちの絶望と無力感。
いつしかその運命を受け入れ、やがて訪れる最期のとき。
提供者たちの中に反乱分子でも生まれれば、まだ救いはあるのに。そんな私の願いも虚しく、淡々と主人公たちの日々は過ぎていきます。
一度だけ、登場人物の感情が爆発した場面では涙がとまりませんでした。
この小説は描写の美しさも魅力です。
特に寄宿学校のころの語り口は素晴らしく、情景が目に浮かぶようでした。
いつかイギリスへ行くことがあれば、私も主人公のように、森の中にヘールシャムの面影を探すことでしょう。
映画ではこの美しい風景を忠実に再現していると思います。
キャストも子役を含めて美形揃いで、すごく綺麗な映画でした。
興味のある方はぜひ。